今日は原爆が落とされた日になります。
テレビでは、悲しい雰囲気を醸し出そうとみなさん頑張っています。
しかしそれらは、正確に戦争を伝えているようには思えません。
宮城晴美さんが著された「母が遺したもの」(高文研)を読みました。
集団自決については、慶良間諸島の渡嘉敷島と座間味島で隊長の命令により集団自決したという事になっていました。
宮城さんの母、宮城初枝さんも手榴弾で集団自決を行いましたが、玉砕かなわず生き残り、隊長命令による集団自決だったと証言した人です。
昭和二十年三月二十五日
初枝さんはアメリカ軍の空襲の後、晴美さんが”鳥をさばくのに牛刀を用いる”と表現された、凄まじい艦砲射撃が続き、明日にもアメリカ軍が上陸するかもしれないと皆が感じていたその夜、
座間味島の守備隊長、梅澤裕隊長の元に、村の助役らと共に訪れます。
そこで助役が「もはや最後の時が来ました。私たちも精根つくして軍に協力いたします。それで若者たちは軍に協力させ老人と子どもたちは軍の足手まといにならぬよう、忠魂碑の前でさせようと思いますので弾薬をください」と言いに行きます。
しかし隊長は銃弾を渡すことなく、そのまま「今晩は一応お帰りください。お帰りください」といいます。
しかしその夜、村民の玉砕、つまり集団自決が起こるのです。
それを目撃していましたが、初枝さん自身はその時玉砕しません。
やらなければいけないことがあったからです。
皆が玉砕した後、兵隊さんのお手伝いをしますが、帰らない兵隊さんを死んだと思い、宮城初枝さんは友人五人と玉砕の覚悟を決め、手榴弾を爆発させます。
ですが手榴弾は爆発せず、玉砕はなりませんでした。
戦後、渡嘉敷島と同じ理由で、初枝さんは「隊長の命令であった」と証言するのです。
命令したところを見ていなかったのに・・・
集団自決でなくなった方の三十三回忌の時、出版社の取材のために座間味島に戻った娘さんである著者の宮城晴美さんへ「隊長命令ではなかった」と語ります。
壮絶な体験をし、生き残り、「隊長の命令だった」と嘘の証言し隊長の名誉を傷つけ、戦争の語り部となり、嘘の証言を撤回しますが、それかがまた更なる悲しみを生む結果となってしまいました。
座間味島で起こった集団自決。
渡嘉敷島で起こった集団自決。
「慶良間諸島で起こった集団自決」と同じに片づけられます。
集団自決が起きたその夜、隊長による命令がなかったのも同じ。
無かったのにあったとした理由も同じ。
同じに見える二つの島での集団自決。
集団自決をしなければいけないと住民が思った理由も同じ理由です。
南ののどかな島に、兵隊さんがやってきて、村民と兵隊さんは共に戦争を戦います。
そして目の前で、皆が死んでいくのです。
慶良間の陸軍の兵隊さんの任務は、自動車のエンジンをつけたベニヤの船に機雷を二つ積み、夜の闇夜に近寄り爆発させ、アメリカの艦隊を沈没させることでした。
特攻です。
しかも皆、二十歳未満の志願兵です。
志願といっても特攻を志願したわけでなく、任務が特攻だったのです。
特攻であること聞かされますが、兵隊さんは逃げることなく、その任務を受け入れます。
実際島では、いざ作戦の好機のときがありました。
運悪く(運良く?)ある上官の視察中で、上官が自分の命惜しさでとった行為で任務を果たせなくなってしまいます。
兵隊さんは武器はそのベニヤボートだけですから、陸上戦をする兵器などは持っていません。
しかし上陸したアメリカ軍に切り込みをしていきます。
実際の戦いに入る前の住民と若い兵隊さんの関係は、演芸大会をやったり、寝食を共し、兵隊さんは島の人をお母さんと呼びます。
お母さんと呼んでいた兵隊さんは、島のお母さんの目の前で死んでいきます。
戦えなくなった兵隊さんは、目の前で自ら命を絶っていきます。
なぜ集団自決に至る経緯は、宮城さんがあえて『玉砕』という言葉を使っていることでわかります。
この本では玉砕に至るまでを、宮城さんの母初枝さんの手記(日記)からよくわかります。
平成の平和の中に生きる者たちには絶対理解できないような出来事が六十二年前に、南の美しい小さな島で起こっていたのです。
守備隊長の戦後の生き方も全く違います。
渡嘉敷島の隊長の戦後の行動には共感を持てますが、座間味島の隊長が初枝さんと出会っておこなったことも、渡嘉敷島の隊長がおこなったことも『まさに日本陸軍』です。
集団自決が、隊長命令であった、無かったより大事なのはこの島での戦争の様子です。
死んだ者も、生き残った者も、死んだ者の家族もそれぞれが戦い、戦後を生きます。
それを私たちはよく知りません。
学校でもその様子は伝えません。
この時期、平和事業や平和を訴える番組が多くありますが、戦争の様子を正しく伝えているとはとても思えません。
この本では、隊長命令がなかったとしたことより、南の美しい島で、兵隊さんと島民がどんな戦いをしたかよくわかります。
その悲惨さは、原爆を落とされた人も集団自決をした人も変わりません。
曾野綾子さんの『沖縄戦・渡嘉敷島「集団自決」の真実』
そしてこの宮城晴美さんの『母が遺したもの』
集団自決から見えてくれる私たちが知らない戦争を教えてくれます。
特に宮城さんの本は、難しい言葉を使っていらっしゃいませんので、普段本をあまり読まれない方にもお勧めです。
是非読んでください。
今の日本では、本で知るしか戦争の真実は見えてきませんから